和歌と俳句

水原秋櫻子

いわし雲山塊厚く空うすし

残雪をかたへに秋の一古鏡

別山を下り来る灯あり星月夜

銀漢や峰越の疾風うちひびき

一渓の爛れ且つ噴く秋の風

薬師岳しぬぐや岨の男郎花

青雲に湧く瀧青き霧へ落つ

木犀や二夜泊りに雨一夜

山葡萄笹に這ふなり万座口

秋澄むや湯釜の濁りとこしへに

柿落葉して人径の絶えにけり

鳴子鳴り堂にあまれる大耳佛

色鳥の来て佛敵の名の悲し

四天王忿怒す百舌鳥もまた叫ぶ

松よりも水煙蒼しわたり鳥

拝みしをまぼろしかとも秋の暮

映ゆる厨子より黒き御像

人訪はぬ百舌鳥の松のみ法輪寺

夜霧ふる塔下なるらし鹿鳴くは

鯊落ちて柳は青し博多川

残鐘や離れもあへぬ冬の蝶

冬菊やイエズスさまに屋根漏る日

水仙やおん母まつるいくとせぞ

冬御空老いて召されしもの多し

石蕗にねむるミカエル弥吉ガラシヤまり

冬凪の艪のおときこゆ懺悔台