冬薔薇や秘めてをがみし観世音
檸檬樹下籠満ちて冬麗らなり
残る菊束ね始まる酒つくり
初凪や蘂のあふるる磯椿
粕汁の一椀蓬壺うかびけり
甘酒の沸々木瓜は雪深き
春の藻や胸反りのぼる熱帯魚
雪山の泉の鯉を苞にせる
立雛の衣手藤の匂ふなり
誕生佛百禽鳴いて厨子をいづ
誕生佛螺髪ひた濡れたまひけり
青潮の上翔け移り囀れり
石垣は弾痕深し母子草
幟立つを見おろす墓ぞ七百基
鳶の羽の漁夫の肩搏つ鰹揚
鰹船来初め坊の津春深し
岳の雲鬱々凝りぬ樟若葉
薊咲き墓も息づく山の雨
雨蛙石となつたる墓は黙す
金鳳華踏絵も光さびにけり
霧あれて燕も籠る信徒村
七面鳥薔薇咲く道に影蒼し
春雷や愁思無量の観世音
尾を垂れてオランダ塀に鳴く燕
燕来ぬ文字ちらし書く爪哇更紗