和歌と俳句

水原秋櫻子

冬薔薇や秘めてをがみし観世音

檸檬樹下籠満ちて冬麗らなり

残る菊束ね始まる酒つくり

初凪や蘂のあふるる磯椿

粕汁の一椀蓬壺うかびけり

甘酒の沸々木瓜は雪深き

春の藻や胸反りのぼる熱帯魚

雪山の泉の鯉を苞にせる

立雛の衣手藤の匂ふなり

誕生佛百禽鳴いて厨子をいづ

誕生佛螺髪ひた濡れたまひけり

青潮の上翔け移り囀れり

石垣は弾痕深し母子草

幟立つを見おろすぞ七百基

鳶の羽の漁夫の肩搏つ鰹揚

鰹船来初め坊の津春深し

開聞岳薫風あそぶ雲もなし

岳の雲鬱々凝りぬ樟若葉

咲き墓も息づく山の雨

雨蛙石となつたる墓は黙す

金鳳華踏絵も光さびにけり

霧あれて燕も籠る信徒村

七面鳥薔薇咲く道に影蒼し

春雷や愁思無量の観世音

尾を垂れてオランダ塀に鳴く

来ぬ文字ちらし書く爪哇更紗