秋の海深きところを覗き過ぐ
燈籠は油火なれど宙照らす
高野より雲加はりて鰯雲
下り簗だだ漏れ熊野川通る
水に筋金下り簗経たる後
運動会庭の平を天に向け
遺影に菊吾は生きて飯を食ふ
薪を積む密教の冬寒からむ
船衝る寒き筏にごつごつと
負傷ラガー地面にしばし忘れられ
万燈の列の中途に立ちどまる
万燈を行く階あれば降り行きて
万燈の最後春日の常夜燈
おうおうと男掛声都踊
眠る眼も豹紋のうち春の昼
雌の虎が雄の虎に凭る春の昼
耕転機抱きかかへて畦越さす
荒鋤田林丘尼寺にふさはぬもの
電線はかすか新燕とまる他
昭和時代水銀燈の桜の園
排泄をさつと水洗山桜
藤の花真下に落ちて岸に寄る
売る花の如く紫雲英を束ね置く
指を入る蘭鋳の頭に触るるまで
平遠をなす宮城の苜蓿
石庭の不可解縁に昼寝の徒
銀のなき銀閣驟雨ひた濡らす