燭の火が聖菓の上に永く燃ゆ
食べんとて聖菓の燭を吹きて消す
搗き終へし餅にまどかな形与ふ
スタンドの翳ラグビーの半ばは翳
押して保てりスクラムは人間碑
坑外の焚火は長き火を立たす
焚火真近かに高山の雪の凝り
大露頭赭くてそこは雪積まず
慎みて踏む銅山の顱頂の雪
廃坑がおのづと白き息を衝く
廃坑を鎖せる氷柱薙ぎ払ふ
寒き坑車吾と鉱夫と凭れあふ
丸材抛る音春の夜の吉野川
紅椿びつしり防風林をなす
椿山この世ならざる深洩日
他人もまた隠りて遊ぶ椿山
若妻を伴れて遍路も酷からず
畑を打つ吉野の谷へ俯向きて
吉野山中耕牛が峰へ逃げ
銅色に霞める下界そこより来し
中虚にて気球群れみな霞む
モラエスと小春とがゐて阿波霞む
鳴門より抽き出す長き若布刈竿
激流に棹一本の若布刈舟
渦潮の中道若布刈舟は知る
櫓を揚げて鳴門落ちゆく若布刈舟
観潮船ふつと白煙音とならず
渦潮の中転舵して身を落す
桜満開雪折れの枝のまま
病める鱒落花に尾鰭動かしづめ