和歌と俳句

茂吉
この庭にそびえてたてる太き樹の桂さわだち雷鳴りはじむ

遠雷や泳ぎ子よりも低き辺に 汀女

雷去りぬ胸をしづかに濡らし拭く 波郷

唄きれぎれ裸の雲を雷照らす 三鬼

遠雷の今たしかなる楡大樹 汀女

沈みゆく炭田地帯雷わたる 三鬼

遠雷に身のしづもりを疑ひし 節子

茂吉
いかづちの とどろくなかに かがよひて 黄なる光の ただならぬはや

雷遠くほころびを縫ひゐたりけり 真砂女

遠雷や出荷とゞきし勝手口 真砂女

夜半の雷いのち賭けし句なほ選ぶ 林火

墨色の金うかべたり日雷 波郷

山鳩のくごもる唄に雷迫る 三鬼

はたた神夜半の大山現れたまふ 青畝

紫の紐のごとくに雷火かな 青畝

うつむく母あおむく赤子稲光 三鬼

近づく雷濤が若者さし上げる 三鬼

夜神鳴能登は半島ごと震ふ 誓子

遠雷や発止と入れし張扇 秋櫻子

一発のかみなり湖に何か銹ぶ 不死男

智照尼のうす墨ごろも雷涼し 青畝

激雷のその後青し北の海 汀女

ライターの焔に眉焦す雷のあと 悌二郎

雷晴れて雲に谷川岳の耳 悌二郎

煎餅食ふ力も失せぬ日雷 波郷

雷一度とどろく青嶺青照りに 林火

国原に雷をまろばす皇子の墓 静塔

子雷太鼓しめらせはぐれたる 静塔