和歌と俳句

齋藤茂吉

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ゆづり葉の 紅の新ぐき にほへるを 象徴として 今朝新たなり

あめつちに 充ちわたりたる 平らぎの かがやく心 空しからめや

午前より 御園の森に 鴉鳴く 人間のつれあひ ものいふごとく

濱名湖の 蓮根をわれに おくり来ぬ その蓮根を あげものにする

梅の花 うすくれなゐに ひろがりし その中心にて もの栄ゆるらし

ゆふぐれの 鐘の鳴るとき 思ふどち おぼろになりて ゆかむとすらむ

杉の枝に ひかる雨つゆ くれなゐに 光る雨つゆ 見つつわがゐる

わが部屋の 硝子戸あらく 音たてて 二人の孫が 折々来る

いつしかも 日がしづみゆき うつせみの われもおのづから きはまるらしも

なすのしる このゆふまぐれ 作りしに ものわすれせる ごとくにおもふ

いかづちの とどろくなかに かがよひて 黄なる光の ただならぬはや

口中が 専ら苦きも かへりみず 晝のふしどに ねむらむとする