新年が めぐりくるとき 七十近き 齢になりて 吾は喜ぶ
十二月二十二日は 冬至ゆゑ ひとりこもりて 吾はゐたりき
口も利かず 我は居れども をさなごの 泣くこゑ聴けば 疲るるものを
アララギを 吾に呉れけり アララギの 若木よろしと 友等がいひて
ひむがしに 茜さす雲 たなびきぬ 平凡にして 欲のなき雲
あめつちの 眞中にありて 新しき きほひのまにも 育むらむか
こがらしは 新しく吹き もろもろの 罪のすがたも あとなかりける
絶ゆるまも あらず吹きくる 劫運を あやしとおもふ ことさへもなき
この代なる うつつのさまも はかなけど 記して置かむ のちの代のため
つらなめて 雁の飛ぶとき 折々は 平砂のうへに 下りにけるかも
日の光 紅くかがやき いでしとき この身ひとつに 仰がむとする
をさなごが やうやく物を いふときに 言の吉言を おのづから言ふ
枇杷の花 冬木のなかに にほへるを この世のものと 今こそは見め
新年の 一時われは 身はさやけ 心はさやけ 透きとほるほど
北よりの 雲をさまりて 啼きわたる 鴉のむれを 見らく樂しも
もろともに 老人となりて こもるとき こちたきことを 相言ふなゆめ
むら雲は しづまり行きて 日の光 まどかになりぬ 年は明けぬと
人の世は しづかなるけふの 新年と あらたまりたる 時にあひにける
山の上に 日は這ひのぼる ごとくにて またたく間も とどまらなくに
たたかひの 劇しかりし日も 忘れ得ず みちのくの山を 吾は下りき
すくよかに 事をはげまむ まぼろしの ごとく現の 吾は老いつつ