和歌と俳句

蚊の声や夜深くのぞく掛け鏡 蛇笏

添乳寝の蚊にくはれたる乳房かな 草城

蚊を搏つや丁と音して玉の膚 草城

山の蚊の縞あきらかや嗽 不器男

草抜けばよるべなき蚊のさしにけり 虚子

昼も蚊がくるうつくしい蚊 山頭火

吸はねばならない血を吸うて殺された蚊で 山頭火

病室をうちといふ子に来る蚊かな 汀女

打つ手を感じ逃げてゆく蚊の、寝苦しい 山頭火

蚊の声のひそかなるとき悔いにけり 草田男

よべは足けふは手に来し初蚊かな 石鼎

蚊のとまる顱頂をたたき庭案内 青邨

蚊たたいて子規遺墨集一瞥す 青畝

蚊の声の中に思索の糸を獲し しづの女

肘ついて蚊の一こゑを聞きながす 青畝

昼の蚊の静に来にし雅会かな 虚子

大いなる蚊が出て食ふ早雲寺 虚子

撃ちし蚊にみどりも紅も亦黄もなし 草田男

藍がめにひそみたる蚊の染まりつつ 虚子

貌暮れぬ風さはり蚊の声さはり 草城

纏ふ蚊の一つを遂に屠り得し 草城

蚊帳の蚊を屠る女の拍手音 三鬼

尼寺の蚊は殊更に辛辣に 虚子

妻病めば目の覚めがちに蚊の声す 亞浪

蚊の入りし病の蚊帳を吊りづめに 誓子

蚊を摶つて頬やはらかく癒えしかな 波郷

遊ぶかに蚊のとびわたり濃きミルク 草田男

仮住みのここの藪蚊も縞あざやか 三鬼

こんな蚊が明恵上人を螫しにけむ 青畝

吸血の尻うごく蚊に縞流れ 不死男

蚊の声や死に目にあへぬ顔いくつ 不死男

蚊を叩き墨汁一滴よごしたり 青畝