阿波野青畝
国原
あばら屋の永つたらしき雪解かな
一本の梅の風流忠魂碑
高雛の初々しくぞゐたまひし
ゆつくりと山懐の彼岸鐘
犁にただちに菫乗るを見し
病人の十歩は難し花に笑む
花篝魍魎肩を摩りにけり
六甲を低しとぞ凧あそぶなる
真帆とまり片帆すみやかよき汐干
羽の如散つてはしりし牡丹かな
ひなげしの花びらたたむ真似ばかり
嘴の水こぼれつる濡鵜かな
肘ついて蚊の一こゑを聞きながす
蚊火それて灯が宝玉となりにけり
鉄扉して大岩がねの氷室かな
台風をのがれてここに雨の月
月の戸に吉野の早瀬まのあたり
闇汁やさのみならざる外の闇
突きでたる梅の下なり畳替