和歌と俳句

西東三鬼

熱砂来て沖も左右も限りなし

一荷づく九十九里浜の汐を汲む

旱天やうつうつ通る青鴉

青柿の下に悲しき事をいふ

月夜の蛾墓原を抜け来し我に

炎天の人なき焚火ふりかへる

青柿は落つる外なし燈火なし

しゆんぎくを播き水を飲みセロを弾く

灯を消せば我が体のみ秋の闇

秋浜に稚児の泣声なほ残る

農婦来て秋のちまたに足強し

秋天にボールとどまる少女の上

稲妻に道真向へば喜ぶ足

法師蝉遠ざかり行くわれも行く

ぼんやりと出で行く石榴割れしした

身を屈する礼いくたびも十五夜

十五夜に手足ただしく眠らんと

夕焼へ群集だまり走り出す

百舌に顔切られて今日が始まるか

秋雨にうつむきし馬しづくする

青年の大靴木の実地にめり込む

秋の森出で来て何かうしなへり

叫ぶ心百舌は梢に人は地に

こほろぎの溺れて行きし後知らず

蟋蟀のひきずる影を見まじとす