和歌と俳句

久保田万太郎

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ゆふやけの藁塚そむる餘寒かな

種彦の死んでこのかた猫の恋

春水に袂かかへてかがみもし

遠退きて赤きものある牡丹の芽

春暁や赤く塗りたる下足札

時計屋の時計春の夜どれがほんと

春の灯のあるひは暗くやはらかく

きえぎえに白山みゆるかな

あしはらの中ながるるや春の水

蒲公英のにはかなる黄のわきにけり

芝生ありたんぽぽ咲けり一人たつ

浅茅生の一もとざくら咲きにけり

山吹の咲くをまぶしとみたるのみ

パンにバタたつぷりつけて春惜む

春寒きものの一つや土瓶敷

沖かけて波のわきたつ餘寒かな

十日ほど日記ためたり水温む

あたたかにひそかにさしてくる日かな

しばらくは入日まばゆきかな

夕空の光つめたき弥生かな

何よりも松島は高き日永かな

品川の海のまばゆし入学

今戸へと道のわかるるかな

雲白き日のつづくなり蝌蚪の水

山吹やひそかに咲ける花の濃く

山吹の今さかりなる崖仰ぐ

ゆく春の耳掻き耳になじみけり