和歌と俳句

山口青邨

風呂の火を焚きつつ眺め夕ざくら

筆硯のそのままにある夕ざくら

蒲公英を踏みしと思ふ夜の径

南部富士近くて霞む花林檎

みちのくの山たたなはる花林檎

赤きものここに落つ山椿なり

凧揚げて来てしづかなる書斎かな

雪ふるやきのふたんぽぽ黄なりしに

縁に立つ馬酔木の花はゆれやすし

初蝶の朱金色に飛べりけり

落雁の都鳥あり梅の宿

桜餅これよ長命寺桜餅

鯉跳ねて弁才天の春灯

春の水弁才天の島ひたす

一本弁才天の島にあり

山門に雪のごとくに雪柳

花冷や尼の火鉢借りにけり

夕ざくら大内山へ烏とぶ

人も旅人われも旅人春惜しむ

花散るや紺紙金泥の鸚鵡経

曼陀羅に落花ひねもすふりやまず

たえまなき落花のしたのみやげうり

どうだんの花がこぼるる石遅日

ゆく春や一寺のうしろ又一寺

霞みつつ辛夷の花はなほも白く