和歌と俳句

水無月

茂吉
わが體に うつうつと汗 にじみゐて 今みな月の 嵐ふきたつ

茂吉
みなづきの 嵐のなかに 顫ひつつ 散るぬば玉の 黒き花みゆ

牧水
水無月の 朝ぞら晴れて そよ風ふき ゆらぐ木の葉に 秋かと驚く

牧水
青水無月 けふ朔日の あさ晴れて むら山のおくに 雪の峰見ゆ

牧水
水無月の 朝たけゆきけ 浮きいづる うす雲のかげに 横ぶせる

八一
みすずかる しなののはての むらやまの みねふきわたる みなつきのかぜ

水無月や草植ゑふやす庭造り かな女

水無月の故国に入れば翠かな 草城

水無月の一樹いよいよ茂るなり 草城

水無月の埃つもれる芭蕉かな 花蓑

水無月や青嶺つづける桑のはて 秋櫻子

水無月の人はいとしも汗を拭く 石鼎

風騒の夜を水無月の館かな 蛇笏

水無月の雲斂りて和歌の浦 蛇笏

みなづきの水の太白這移る 青畝

水無月の雲の耳より月うまる 楸邨

みよしのや青水無月の青山の 草城

みなつきの吉野は朝日子のはやき 草城

水無月の青女房の嘆言かな 波郷

水無月や滞船ゆるる神代川 普羅

営巣帯明けて水無月の富士赤し 秋櫻子

火の山の水無月のけぶり雲に立つ 秋櫻子

水無月や庫裡見通しに庭牡丹 秋櫻子

水無月の白樺細きほど白し 悌二郎

はじめての道も青水無月の奈良 爽雨

水無月の落葉とどめず神います 秋櫻子

水無月やつまむ染粉の臙脂虫 静塔