和歌と俳句

水原秋櫻子

誰も来て仰ぐポプラぞ夏の雲

火の山の水無月のけぶり雲に立つ

野あやめのなびけば駈くる仔馬あり

はまなすやサイロに下りし湖の鳶

獅子独活や旅愁きびしき海の色

燈台を真白獅子独活咲き埋む

薫風や海豹の頭の濡れどほし

吹きのぼる茅花流しやサロマ川

洲に立てる青鷺ひとつサロマ川

リラ白く霧もサイロもまた白し

の上しろがねのべて霧の湖

蕗刈るや霧よりしろき屈斜路湖

湖いでてすぐ緑蔭の釧路川

茂りたる樹海陥り湖ふかし

雲去るや夏青山の摩周岳

暮涼し碧瑠璃ながす釧路川

蕗の傘三人容れぬ朝曇

泉湧きゆがみて戻る鱒の列

鱒釣れてひらめく宙や青あらし

河骨に立ちたる鷺も月を待つ

狐来しあとを渚に夏柳

黒百合の一輪霧らふ湖の神

葛しげる霧のいづこぞ然別

さるをがせ白樺よりもしろきあり

筒鳥や熊のかよひ路いま絶えて