水原秋櫻子
鰭焦げて岩魚しづめり岩魚酒
よき旅のをはり月さす岩魚酒
十勝野や幾牧かけて朝の虹
十勝野は落葉松つづき虹低し
遠雲の夏おとろへぬ阿寒岳
濁る瀬はサビタ映さず空知川
浜菅や夕川波に風つのり
浜菅や燈台濡らす沖の雨
浜昼顔大河の波にうちふるふ
浦安の俄出水や菊日和
もののふの誉の岩に鯊ひとつ
蓮枯れて水に立つたる矢の如し
畑人の手力蕪を引き抜けり
供華多きなかに緋縅の鶏頭花
江の奥にふかき江澄めり石蕗の花
濤声をつらぬく鵯や日の出待つ
鯛ひとつ投げて躍れる花芒
岩は皆渦潮しろし十三夜
袖濡れて硯洗へり大三十日
羽子板や蝶に目覚めし獅子の精
羽子板の道節印を結びけり