和歌と俳句

若山牧水

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川ばたの 並木の桜 つらなめて けふ散りみだる 麦畑のかたに

樫の木の 茂りを深み 古き葉の きのふもけふも 散りて尽きなく

霰なす 樫の古葉に うちまじり 散りいそぐかも 庭のさくらは

芹生ふる 沢のながれの ほそまりて かすかに落つる 音のよろしさ

青水無月 けふ朔日の あさ晴れて むら山のおくに 雪の峰見ゆ

水無月の 朝たけゆきけ 浮きいづる うす雲のかげに 横ぶせる

とほ空に 浮き出づる雲の とりどりに 光りなびきて 青あらし吹く

四方に鳴く 昼の蛙に 聞き入りて うつつなく居れば 雲雀もぞ啼く

アカシアの 瑞木の花は 散りすぎて 木の間にふかき 日にひかりかも

川ばたの アカシアの森の した草は 刈りあらされて 蛇苺見ゆ

うちあがる 遠き荒瀬を 見にあゆむ 川原かぎろひ 雲雀啼くなり

荒土の きりぎし高く つづきたる 利根の岸辺の 濃き青葉かな

山の上の 榛名の湖の みづぎはに 女ものあらふ 雨に濡れつつ

みづうみの かなたの原に 啼きすます 郭公の声 ゆふぐれ聞ゆ

みづうみの 向つ岸辺の 山かげを 移りつつ啼く 郭公きこゆ

みづうみの 水のかがやき あまねくて 朝たけゆくに 郭公聞ゆ

いただきは 立木とぼしき あら山の 岩が根がくり 郭公聞ゆ

吹きあぐる 渓間の風の 底に居りて 啼く郭公の けぶらひ聞ゆ

となりあふ 二つの渓に 啼きかはし うらさびしかも 郭公聞ゆ