和歌と俳句

藤原良経

南海漁父百首

つまきをる便りにみれば片岡の松の絶え間にかすむふるさと

しめてけり朝餉のけぶり立ちそめて隣となれる杉のいほかな

心をぞ浮きたるものと恨みつる頼む山路も迷ふ白雲

この里は雲の八重たつ峰なれや麓にしづむ鳥のひとこゑ

待つ人の標ばかりのしをりせばかへりはつべき身とや知られむ

君が代に出でむ朝日を思ふかな五十鈴川原の春のあけぼの

明らかに昔のあとを照らさなむ今もくもゐの月ならば月

神をあがめ法をひろむる世ならなむさてこそしばし國を治めめ

はかなくも花のさかりを思ふかな憂き世の風は休む間もなし

さてもさは澄まば澄むべき世の中の人の心の濁りはてぬる

思ひ遂げばこの世はよしや露霜を結び消えける行く末の夢

我ながら心のはてを知らぬかな捨てがたき世のまだいとはしき

人の世は思へばなべて化野の蓬がもとの一つ白露

おほかたに夢をこの世と見てしがな驚かぬこそ現なりけれ

山寺のあかつきかたの鐘の音に長きねぶりを覚ましてしがな

月のすむ都は昔まどひいでぬいくよか暗き道をめぐらむ

心こそ憂き世のほかの宿なれど住むことかたき我が身なりけり

さりともと光は残る世なりけり空ゆくつきひ法のともしび

水上に頼みはかけき佐保川の末の藤波なみにくたすな

和歌の浦の契もふかし藻鹽草しづまむよよを救へとぞおもふ