和歌と俳句

寂蓮法師

十一

しぐれつる 夕日の色も 袖さえて やまかげ寒し 菊のむら露

やまかげに 曇りもあへぬ むら時雨 なごりは月の 影よりぞ降る

うつろはで しばし日かげを 待つ程に 露にぞかかる 朝顔の花

あらいその いはもとゆすり 立つ浪の たえまじくまで 濡るる袖かな

里とよむ 命のうちにも ありぬばし 心ぞ人は 墨染の袖

浅茅原 ふるきそとはに 契りおかむ となりとならば あはれともみよ

柴のとを 訪はであくるや 誰ならむ 通ひなれたる 峰の松風

誰となく 人を咎むる 里の犬の こゑすむ程に 夜は更けにけり

立田山 こゑゆく峰の むら時雨 こずゑにのみぞ あとは見えける

新古今集・雑歌
立ち出でて つま木をりこし 片岡の ふかき山路と なりにけるかな

さみだれは 苔の下もる 谷水の 山とよむまで 日数ふりぬる

おほゐ川 ゐせきの水や こほるらむ 早瀬に鴛鴦の こゑくだるなり

新古今集・雑歌
和歌の浦を 松の葉ごしに ながむれば 梢によする 海人の釣舟

うぐひすの 涙のつらら こゑながら たよりにさそふ 春の山水

人知れぬ うらみは空の 雲なれや つもれば袖の 雨と降るらむ

いかにして 露をば袖に さそふらむ まだ見ぬ里の 荻のうは風

貴船川 百瀬の波も わけ過ぎぬ 濡れゆくすゑの 袖をたのみて

花の春 月の秋だに 人とはぬ 柴のいほりの さみだれの空

といへば 姨捨山の 秋の空 ながむるやどは 更科の里

鹿のねに 思ひをわくる 秋の夜は 身よりほかにも ものぞ悲しき