和歌と俳句

藤原清輔

住吉の 浜松が枝の 夕けぶり 晴れぬ思ひは 神ぞ知るらむ

はるばると いづち行くらむ 和歌の浦の 波路に消ゆる あまの釣舟

わたつみの 波にただよふ 浮島は やどもさだめぬ あまや住むらむ

年を経て 梅も桜も 咲くものを わが身の花に 待ちぞ侘びぬる

うきながら 今となれば 惜しき身を 心のままに 厭ひつるかな

つくづくと 見しおもかげを かぞふれば あはれいくらの 昔なるらむ

夢のうちに 五十路の春は 過ぎにけり 今ゆくすゑは 宵の稲妻

こもり江に 生ひぬる蘆の 風吹けば をりふしにこそ ねは流れけれ

世の中を 今は限りと 見る月の 心細くぞ ながめられける

よもぎふの 露とつひには なるものを 置き所なく 身を嘆くらむ

初瀬川 谷かくれゆく さざれ水 あさましくても すみわたるかな

わぶる山 岩間に根ざす そなれ松 わりなくてのみ 老いや果てなむ

漁火の ほにこそものを いはねども あまのうらみは 絶えせざりけり

しづのをの きぞのあさぎぬ ぬぎをあらみ 目もあはでのみ 明かしつるかな

今はただ ちからくるまも つきはてて やる方もなき 嘆きなりけり

われひとり からなつなこそ かなしけれ みをつみてだに 訪ふ人もなし

から衣 みさをも今は かなはじを 何にかかりて 過ぐすべき身ぞ

あるべしと 思ひなるをの ひとつ松 たぐひなくこそ かなしかりけれ

武蔵野の うけらが花の おのづから ひらくるときも なき心かな