和歌と俳句

藤原清輔

うらめしと 思ひはてぬる 世の中を しのぶるものは 涙なりけり

夕まぐれ 尾花ふきこす 秋風の 涼しきことに 逢ふよしもがな

みこもりの ゑくの若菜に あらねども ものおもひつむ 袖は濡れつつ

世の中の つららはいつも わかねばや 心とけたる をりもなからむ

うきしほの 波にただよふ 浜千鳥 あととどむべき 方も知られず

いしぶみや つがろの遠に ありときく えぞよのなかを 思ひ離れぬ

たちがたき 思ひの綱に まとはれて ひきかへさるる ことぞかなしき

奥山の したひかしたに 鳴く鳥の 音にもいかで 人にきかれし

今はただ おとなし川に みをなして うきせも人に 見えじとぞ思ふ

よもやまを ながめてのみも くらすかな いづれの峰に 入らむとすらむ

はかなしや 雪のみやまの 鳥だにも 夜に経ることは 思はぬものを

うぐひすの いつもみやこへ 出でしかと こりはるばかり 音やはなかれし

ふるさとを しきしのぶにも あやむしろ をになるものと 今ぞ知りぬる

三笠山 たち離れぬる 雨雲の かへしの風を 待つ空ぞなき

ふるさとを しのぶもぢずり かぎりなく おもひ乱るる さまを見せばや

つれづれと よりどころなき ここちして 網代に氷魚も かぞへつるかな

新古今集・雑歌小倉百人一首
長らへば またこの頃や 忍ばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき

むつごとも 尽きて明けぬと きくからに 鴫のはねがき うらめしきかな

朝霧の たえだえかかる そともたは むら穂にてたる ここちこそすれ

千賀の浦に ふみたがへたる 浜千鳥 おもはぬあとを 見るぞうれしき