ひぐらしにしばらく雨のふりいそぎ 万太郎
茂吉
しづかなる 亡ぶるものの 心にて ひぐらし一つ みじかく鳴けり
ひぐらしやしほどきわたる滑川 万太郎
かなかなや母を負ひゆく母の里 鷹女
蜩や暮るるを嘆く木々の幹 草城
蜩や水底に畦澄むが見ゆ 楸邨
蜩や手にふりすつる帽の露 楸邨
蜩のマツカリ岳を目にさめき 楸邨
暁の蜩不義理が三つ四つほど 草田男
暁の夢のきれぎれ蜩も 林火
蜩や草田男を訪ふ病波郷 波郷
蜩やながき話の苦の世界 波郷
かなかなの森出づ流れ何の香ぞ 波郷
たちまちに蜩の声揃ふなり 汀女
蜩の街角はあり人は亡し 楸邨
蜩のさびしくなりて「もういいか」 楸邨
蜩の森の外には湧くものなし 楸邨
ひぐらしの音を起したる萱の中 風生
蜩のつと鳴きだしぬ暦見る 立子
蜩やつひに永久排菌者 波郷
ひぐらしや早潮にとぶ魚あまた 秋櫻子
早潮のさせばひぐらしの島ひたる 秋櫻子
蜩や水底に貝口ひらく 楸邨
赤松や遠きは蜩充満す 楸邨
かなかなや指組めば似る晩祷に 鷹女
ひぐらしの打振る鈴の善意かな 龍太
ひぐらしの幹のひびきの悲願かな 龍太
ひぐらしや故山深きへ探り入り 草田男
蜩や白岩に友とその妻と 草田男
かなかなや峡残光の露天碁に 草田男