和歌と俳句

蜩 ひぐらし かなかな

ひぐらしのこゑのつまづく午後三時 蛇笏

滅びゆくもの生れゆくものいま蜩 楸邨

爽として蜩の鳴き出でたりな 虚子

ひぐらしの鳴く白川へ入り行かず 誓子

かなかなやあかつき闇のいやふかく 万太郎

かなかなやあけのこる灯の二つ三つ 万太郎

蜩や雲にのこりし夜のなごり 万太郎

蜩にきらめく一劃そこへくだる 楸邨

ひぐらしや熊野へしづむ山幾重 秋櫻子

ひぐらしの土にしみ入る沼明り 蛇笏

ひぐらしやいよいよ雨のふりつのり 万太郎

ひぐらしが啼く奥能登のゆきどまり 誓子

夕蜩掘割黒く汐上げつ 汀女

ひぐらしや高嶺落ちこむ青湯壺 不死男

深山十九時ひぐらしの声折れさうに 不死男

雲中も杉蜩は里寄りに 林火

灯さめと思ひ臥しをり蜩に 波郷

どの谿となくかなかなの夕谺 青畝

合掌佛蜩ひとつ遠鳴きに 林火

蜩や灯ともせばわが影法師 林火

蜩の声終るまで何を待ちし 汀女

ひぐらしの羽黒座りて耳学問 静塔

古人多く旅に死す蜩の鳴き綴る 林火

佛壇と背中合せの蜩谷 林火

蜩や一山を占む竹の総 林火