松本たかし
稀といふ山日和なり濃竜胆
前山に雲居てかげる庭芒
村人に倣ひ暮しぬ吊し柿
蓮広葉芭蕉広葉も今朝の秋
夜長なる呆け瞼の眉の影
通り雨踊りとほして霽れにけり
秋扇や生れながらに能役者
山の上の日に貼替へし障子かな
貼替へていよいよ古し障子骨
鯊釣や片手に蘆をとらへつつ
蜩や杉本寺のあさゆふべ
避暑町の少しさびれぬ花木槿
雨落つる空がまぶしき木槿かな
柿干して日当りのよき家ばかり
濃紅葉に日のかくれゐる美しさ
這ひのぼり失せし日かげや谷紅葉
山坂に爪立ち憩ふ紅葉かな
雨あとの石あらはなる坂紅葉
温泉の香のただよひゐるや夕紅葉
そこはかと禰宜の起居や軒紅葉
女郎花やや略したる床の間に
蘆の穂の夕風かはるけしきあり
コスモスや倒れぬはなき花盛り