和歌と俳句

松本たかし

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の夜は露呼ぶ肌の如来とよ

堂塔の霧深き夜の佛たち

矢作とは浅き大河よ花芒

旅終へしあと家がちに秋深し

舟造る槌音も秋城ヶ島

葉月潮澄み泳ぎ子の声も澄む

網を煮る釜火燃えたつ秋の風

秋暑し石垣打つて木槿散る

夕月夜島山葛をうち纏ひ

軒の下一線の漁火竝びゆれ

舟蟲が来て露草の気高さよ

露の玉天に盛り上げ紫苑咲く

露日和やがてぞ乾く紫苑かな

紫苑にも濃きと淡きと秋日和

かまつかの一本が守る勝手口

帷かかげ蔵書見たしやちちろ蟲

十六夜の書斎に敷きし客布団

石崖の不壊金剛の石の

花一つ確と存して破芭蕉

庭雀肥る秋なり家妻も

家妻のあはれつましき小菊咲く

秋深しピアノ解きて調律師

黒漆の厨子うち開き紅葉冷え

み佛に紅葉置くなる微妙音

佛前に唯一穂の秋燈