歩みつつ月鉄塔の右手にあり
我が猫をよその門辺に菊日和
霧の道現れ来るを行くばかり
父に似し弟一人残る菊
枯畦に生ける音ある蝗かな
竹垣の低きがうれし菊いろいろ
乱菊の縫ひつくぐりつ四目垣
残菊の庭の日向の茶の間まで
山川の秋は来にけり黄鶺鴒
山川の鶺鴒の黄の朝まだき
秋そぞろ避暑人去りし町人に
温泉煙の朝の白さよ秋燕
宝珠不壊蘇鉄の花の秋に入る
梵唄の旦暮蘇鉄の花久し
鬼灯を箱に取り溜め誰にやらむ
眼路狭く霧の花野を行き行きぬ
華厳見し雄心覚めぬ花野行く
新涼の瀧の雲霧に打たれけり
花野来て白き温泉に浸りけり
男體の雲動き出て秋時雨
出てゆきし湖舟を追うて秋時雨
骨傷む障子いたはり貼りにけり
秋宮へ神は移らせ秋ぞ立つ
春秋の神の宮居の今は秋
上下の諏訪二柱月の湖
白樺の白は手に附く秋の風