和歌と俳句

富安風生

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槙垣にさしたるごとく一枝

わが机妻が占めをり土筆むく

何もかも春蚊も親し草の庵

春の町帯のごとくに坂を垂れ

端然と座りて春を惜みけり

梨の花人の憂の蒼を帯ぶ

一片の落花の意をばよみとりぬ

妻老いぬ春の炬燵に額伏せ

塵労にまびるる老の朝寝かな

一めんの落花の水に蛙の眼

紐のごと径を垂れて春山家

春蘭や銷閑の具に墨戯あり

岩つかむ鳶もよろめき東風強し

春嶺を重ねて四万といふ名あり

母に逢ふごとく春日に甘えをり

菜の花といふ平凡を愛しけり

掌中の珠ともろめて蓬餅

かげろふと字にかくやうにかげろへる

白隠の前の春眠さめにけり

膝にとる猫雪のごとし春の宵

梨棚の下に遠くに春の雲

水口に百姓の詩の躑躅挿す

俤に城の結構松の花

沓脱に竹履をおくは春寒し