月日過ぎただ何となく彼岸過ぎ
むづ痒き細枝もつれて楓の芽
鶯やここに遺りて久能経
高からず低からずして春の山
つくばひの全身濡るる春の雨
額の芽は三枚づつの葉に解かる
山吹のしだるるさまは離れみる
温泉煙に濡れて雪間の蓬草
硫気噴き虎杖の芽の臙脂濃き
梨棚に蹴あげてまろき春の月
春ショールもてかくし得る罪ならず
故もなく寧からずして木の芽季
水盤に麦の穂高き二月かな
縁とは絆とは春の愁かな
啓蟄のもろもろの中に老われも
恙ともなく心疲れ弥生尽
物の芽の祈るがごときつつましさ
大甍牡丹の芽に垂れにけり
三月の声のかかりし明るさよ
蕨折る八十齢の手をのべて
折られたる涙を噴きぬ初わらび
暖かし池水を掃く禿箒
春濤のうちてもうちても崖屹つ
駿河平拓き残れる野を焼けり
風光るサンドヰツチの耳硬く