和歌と俳句

與謝野晶子

十二月心細さのやや癒えて思へることの更に冷たし

二もとの裸銀杏を前にして火を焚くうへの冬の日の雲

街の上銀ねずみなる皺よりぬ雪雲ひくくはへる夕ぐれ

行きあへる人の肩にもうす青き冬の顔見ゆはたあぢきなし

春立ちぬ夢多き身はこの日より髪に薔薇の油をぞ塗る

春の雲赤くたなびく津の国の四天王寺の塔の上より

初春は恋しき人と歌うたへ遊べと紅き氈の敷きにきぬ

初春のうら白の葉やかけなまし少し恨みのまじる心に

うつくしき白馬附けたる車来て出よとさそひぬ春のはじめ

手に触れて嬉しかりけり正月の緋繻子の帯の清さ冷たさ

紅と白毬の糸をばまさぐればほのかに聞ゆ春の足音

青柳とみどりの草を夢みつつ雲の歩める初春の空

渓川にあふるる水の匂ひして山の恋しきしら梅の花

わたつみの波の上より渡りきぬ黄金の翅の元朝の風

一人居て幽暗の世の鬼かとも身の思はれぬしら梅の花

わたつみの死の島の風通ひ来てちり行くごとししら梅の花

哀れなる一人となりぬ君は今空を行くらん地に遊ぶらん

夢と醒めことひるがへしそのかみの二人にすべき幻術もなし

病てふ冬を過ぐさん春の日よ花さく夏よわれを忘るな

みづからの灰より更に飛び出づる不死鳥などを引かまほしけれ

薄赤きを目にして想ふなり或夜の壁の炉の反射など

ゆくすゑを語らまほしき思ひのみ力となりて満つる朝かな

目見開きはた混沌と目をとぢて融け合はんため恋をこそすれ