蜩の真青に萱尖りけり
人のごとく深夜鉄砲百合は立つ
万緑のわくがごとしや一犬吠ゆ
ソーダ水言訳ばかりきかされぬ
天の川怒濤のごとし人の死へ
夕映え顔にみなかなし神田駅
焼跡の葎の一つ風鈴鳴る
金借りの一日了れば水鶏笛
時計塔と旱の月と空きつ腹
泥鰌汁名を得て人は遠くなる
虹立ちて亡き友の空傾きぬ
寂として万緑の中紙魚は食ふ
朝露にひろひて大や一銭貨
天の川後脚を抱き犬ねむる
冷し馬目がほのぼのと人を見る
死の眸秋燈の穂ののびあがる
泣顔の思ひ出すごとく林檎噛む
火の記憶牡丹をめぐる薄明に
満月に犬がきて尾を遊ばしめ
満月の蹴りたる石に水の音
秋の風書き憂かりけむ字の歪み
息ふとく生きねばならず朝の鵙
もの読んで相好かはる秋の風
野分の樋雀が二つ横歩き