和歌と俳句

室生犀星

枕べのさかづきなめるいとどかな

こどもらは上野つきしかすだく

つゆくさのしをれて久し虫の籠

山みちをゆきつ戻りつあきつかな

こほろぎや路銀にかへる小短冊

きりぎりす夜明くる雨戸明りかな

夜のあかりとどかぬ畝やきりぎりす

きりぎりす隣の臼のやみにけり

明けかかる高窓ひくやきりぎりす

雨傘のこぼるる垣のむかごかな

柴栗の柴もみいでて栗もなし

栗のつや落ちしばかりの光なる

いが栗のつや吐く枝や筧口

うちつれて南瓜あそべり秋の縁

縞ふかく朱冴えかへる南瓜かな

鬼灯やいくつ色づく蝉のから

みづひきのたたみのつやにうつりけり

小烏に野菊もすこし縁の端

白菊や茸もある店の灯のもとに

秋の日や柑子いろづく土の塀

田から田の段々水を落しけり

隣間にいとどを捨つる夜半の秋

馬も仔はつながでゆくよ秋のくれ

秋ふかき時計きざめり草の家

草古りてぼろ着てねまるばつたかな