和歌と俳句

室生犀星

春立や坂下見ゆる垣のひま

春立や蜂のはひゐる土の割れ

竹の風ひねもすさわぐ春日かな

春の日のくれなんとして豆にえぬ

春の夜の乳ぶさもあかねさしにけり

淡雪の寺々めぐりやつれけり

春もやや瓦瓦のはだら雪

生きのびし人ひとりゐて冴え返る

筆えらぶ店さきにゐて冴え返る

枯枝のさきそろひゐて冴え返る

枝のとがりにさはるにあらぬ余寒かな

ひそと来て茶いれる人も余寒かな

おほきにといひ口ごもる余寒かな

春寒や葱の芽黄なる籠の中

春寒や渡世の文もわきまへず

木いちごの芽のさき枯れて春寒き

苗藁をほどく手荒れぬ春の霜

残雪やからたちを透く人の庭

藪の中の一町つづき残る雪

石斑魚に朱いすぢがつく雪解かな

炭俵に烏樟匂ひ雪解かな