和歌と俳句

室生犀星

あはゆきとなるひいなの夕ぐもり

雪みちを雛箱かつぎ母の来る

教科書まとめしまひつ梅の花

井戸端で茶碗すすげり梅の花

硝子戸に梅が枝さはり固きかな

紅梅もまじる雑木のほめきかな

子供らや墨の手あらふ梅の花

庭さきやあさめしこげて梅うるむ

潮ふくむ風匂ふの朝かな

あさごとに梅おほぎ見しがうるみけり

みなさんによろしくといひ梅日和

枯笹や氷室すたれし蕗の薹

日だまりの茶の木のしげり蕗の薹

古垣の縄ほろと落つ蕗の薹

空あかり幹にうつれる木の芽かな

山深くなり芽立ちまばらなる

下萌や薪をくづす窓あかり

峠路やわらびたけてぼうぼうの山

背戸べりにならびつ故山なる

竹の葉を辷る春日ぞ藪すみれ

壺すみれ茶をのむ莚しきにけり