和歌と俳句

野村喜舟

紅雀まことに霜に焼けにけり

酉の市の人波囃す神楽かな

朝風に金箔飛ばす熊手かな

門前の辛き煮〆や御命講

鈍き日や白足袋干せる二三日

堂守や落葉の中の干し布団

年の市宮師は神輿かざりけり

年の市瓦寄進に附きにけり

河豚汁や風雅の上の生別れ

かたまりて色のみだれの海鼠かな

枇杷の花虻より弱き黄なりけり

水仙や降れる木の葉の躍りつゝ

水仙や聖徳太子馬に召し

竹箒落葉の寺へ納めけり

経蔵へ鼬走りし落葉かな

大根の青き頭や神無月

初冬や鶲は崖を鳴きこぼれ

冬の日や仏の花の松ぼくり

冬の日や雀煤けて駅の屋根

玉葱の寒き匂ひを刻みけり

古里や凍てたる中の水車

沼の怪をおどろかし降るかな

獅子頭毛の房々や神の留守

神の旅この勾玉を落し物

淋しさや護国寺近き酉の市

尼法師足袋ねむごろに綴りけり

黒髪や足袋干す下の梳り

釣橋の懸け替えの議を囲炉裏かな

水玉や尻ををかしくかいつぶり

鎌倉や矢倉の中に散る木の葉

大年や貼り煩へる壁と紙

冬空や宝珠露盤は寺の屋根

冬空やみちのおく道先づ千住

冬の日や龍の落とし子長汀

虎落笛母大切に籠りけり

時雨るゝや落葉の上の音立てゝ

小夜時雨生死の外に坐るかな

雪折や椿にあらぬ竹の音

深き神馬の機嫌覗くかな

簀囲ひに蒟蒻踏める深雪かな

傘松と飼はるゝ鶴と深雪かな

大雪や雀落しのあさましく

強し物干竿の一文字

冬の月をみなの髪の匂ひかな

夷講火鉢の灰の深さかな

吸物の柚子の輪切や夷講

お十夜や弥勒菩薩の御声は

浦寺に波に寄るべの十夜かな

釣干菜夜々の狐火誘ふかな

水鳥に葦の葉舟も見えぬかな