和歌と俳句

山口誓子

黄旗

流し雛冠をぬいで舟にます

男の雛もまなこかぼそく波の間に

男の雛も口すぼめつつ波の間に

女の雛の髪はほぐれつつ波の間に

男の雛の俯向きたまひ波の間に

メーデーや空の広告気球に風戯れ

メーデーや夏祭かと子の待てる

あはれ覗きの眼鏡曇るさへ

からくりの鞭ひしひしと夏祭

あはれ奇術をとめを恋ひ焦れ

夏草に汽罐車の車輪来て止る

汽罐車の煙鋭き夏は来ぬ

夏の川汽車の車輪の下に鳴る

真夏日の艀火照りて波の上

夏の潮青く船首は垂直に

夏の空船はアンテナを煙らする

起重機の巨鉤夏の空よりす

舳の日覆艫の日覆と向きかはる

夏の夜も船は真黒き煙噴く

高原の日焼も腕を紅に染む

夏山の発破掛けをるは日田ならし

由布村の納涼幻燈夜下り

夏の夜の提燈を消す息を白み

看護婦の衣袂にほへり秋風

秋の野に溝とび踰えてたのしきろ