北原白秋

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巓の 裏行く低き 冬の雲 榛名の湖は 山のうへの湖

上つ毛 榛名のみ湖 雲のうへの いただきにして 冬の陽映す

雲過ぎて 陽のあたりたる 湖面には 漁舟ひとつ 見ゆとふかなや

榛名富士 明く日あたり 暖しとふ 鬢櫛山は 早や白しとふ

はろばろに 神楽きこゆる 雲の上 埴山姫や 巌の秀に坐す

日すぢ降る 雲こそ透けれ 冬山 榛名の宮は いや石高に

榛名の宮 冬日薄きに 妻と我が 鶯笛を 吹きつつ下る

この下り いまだ日のある 山路とて 残んの黄葉 目にとまりつつ

水上は 屋群片寄る 高岸に 瀬の音ぞひびく 冬陽さしつつ

こごしかる 湯檜曽の村や 片谿と 日ざしたのめて 冬はありつつ

岩ひとつ 白かりしかなや 冬谿 水上の瀬は 澄みにしかなや

短日の 分水嶺に 我がたてば 二方へくだる 水の瀬早し

上つ毛 利根の水上 我が越えて すでにぞくだる 越の山がは

北の峡 雲ひたひたと 押しかぶし 降雪ちかし 紅葉も過ぎぬ

上つ毛は 明き黄葉を 越へ来て ほとほと過ぎぬ のこれる見れば

ふりさけて 空に寒けき 裾山を 奥なる峯は 隠りて見えず

山国は すでに雪待つ 外がまへ 簾垂りたり 戸ごと鎖しつつ

冬の宿 屋内暗きに 人居りて 木蓼食むか ひそと木蓼

父が曳く 柴積み車 子が乗りて その頬かぶり 寒がり行きぬ

和歌と俳句