和歌と俳句

高野素十

一人にて渡舟にも乗り冬の山

火曜日は手紙のつく日冬籠

長停車して冬の蝶とび出づる

もちの木の上の冬日に力あり

噴煙を追ふつぎつぎの冬の雲

鵯の落ちこんでゆく冬木かな

双鷹の次第に遠く舞ひ連るる

木の間の日山茶花花をつづけけり

酉の市疱瘡神も照らさるる

真青な葉も二三枚返り花

時雨るると四五歩戻りて仰ぎけり

葛原の神や留守なる八重葎

夕日沼光りきそへる鴨の波

夕鴨やはるかの一つ羽ばたける

夕鴨や二つ三つづつ水尾明り

鴨渡る明らかにまた明らかに

鴨の池大きく浮かぶ雁らしき

鴨池につき出し山の薄紅葉

水尾ひいて離るる一つ浮寝鳥

どの家も新米積みて炉火燃えて

いろいろのものに躓き炉火明り

炉話の僧に向ひてやや嶮し

誰といふことなく当る大炉あり

炉辺に来る肩に鸚鵡をとまらせて

漂へる手袋のある運河かな