和歌と俳句

高野素十

懐手して電燈を仰ぐ子よ

焚火する為の鍋あり藁仕事

神棚へ炬燵にのぼり手をのばし

柿榾の上ぐる焔の光なく

惜別の榾をくべ足しくべ足して

大榾をかへせば裏は一面火

主立つうしろへ榾の一火花

杜氏寝てをるや蒲団の盛り上り

てつぺんに居るがわが子や枯銀杏

母は家子は枯桑の道をくる

来る人に灯影ふとある雁木かな

灯一つともる雁木を行きぬけし

枯れ果てし真菰の水や日短か

縄の玉ころがつてゐる年用意

柴漬や簀建の中の波こまか

茎漬の母でなかりし姉なりし

餅搗くや框にとびし餅のきれ

餅板の上に庖丁の柄をとんとん

頬被りしつかと覗く噴火口

風邪の子に忙しく暮れし冬至かな

水鳥を見る人の中に宣教師

魚の目を踏まれて泣きぬ謝肉祭

雪だるま笑福亭の門前に

水仙に風見えそめて佇めり

水仙の花の伏したる雪の丘