和歌と俳句

篠田悌二郎

冬紅葉もしなかりせば沼の景

真菰伏し湧水かくす冬目高

岸の一羽羽うつにさめず浮寝

身じろぎもせず群遠く一羽鴨

庇ひあひ傷つけあひし蓮枯れぬ

平穏に事多かりし年詰る

寒暁の遠きもの音夢さらふ

寒鯉のゆたかに澄めり眼のくばり

寒鯉の鰭うごかすやまっしぐら

髪の香や遠き雪嶺懐ひゐつ

顔あたる度に創つき冬ふかし

の香やあをあをと夜の冨士

年は逝く平穏死後にありあらじ

海の岩沈み漂ひ降る

冬の雲さすがに冨士を犯すなし

大瀬崎過ぐるや宙に雪の冨士

憂ひなき浮寝にはこよなき日

思ひ寝と見しが動かぬ鴨は病む

剽軽な小鴨つられて羽搏ち翔つ

歪みなき冬田の畦を冨士の前

並び枯れ黒檜山にも見劣らず

萱全山枯れて死木の下に帰す

枯れ切れず畦に菫の咲くありて

埼あれば小漁港秘め冬椿

さいごかも知れず妻との冬湯旅