和歌と俳句

正岡子規

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病む人の病む人をとふ小春

うれしくば開け小春の桜花

菊の香や月夜ながらに冬に入る

霜月の野の宮残る嵯峨野

気楽さのまたや師走の草枕

漱石が来て虚子が来て大三十日

梅活けて君待つ菴の大三十日

薔薇の花此頃絶えし寒さ

旅籠屋の我につれなき寒さ哉

又例の羅漢の軸の寒さ哉

寒き日を書をもてはひる厠かな

寒けれど不二見て居るや阪の上

石垣や松這ひ出でて水寒し

めでたさに袴つけたる寒さ哉

月影や外は十夜の人通り

佐渡へ行く舟呼びもどせ御命講

眼鏡橋門松舟の着きにけり

馬の尻に行きあたりけり年の市

煤払や神も仏も草の上

煤はいて蕪村の幅のかかりけり

煤はきのここだけ許せ四畳半

仏壇に風呂敷かけて煤はらひ

千年の煤もはらはず仏だち

死にかけしこともありしか年忘れ

炉開や叔父の法師の参られぬ

巨燵から見ゆるや橋の人通り

人もなし巨燵の上の草双紙

文机の向きや火桶の置き処

化物に似てをかしさよ古火桶

鋸に炭切る妹の手ぞ黒き

冬ごもり達磨は我をにらむ哉

冬ごもり世間の音を聞いて居る

冬ごもり煙のもるる壁の穴

雲のぞく障子の穴や冬ごもり

琴の音の聞えゆかし冬籠

人病んでせんかたなさの冬ごもり

冬籠書斎の掃除無用なり

手凍えて筆動かず夜や更けぬらん

無精さや蒲団の中で足袋をぬぐ

白菊の少しあからむ時雨

稲掛けて神南村の時雨哉

しぐるれど御笠参らすよしもなし

金殿のともし火細し夜の

とうげより人の下り来る吹雪哉

つらなりていつつも丸し雪の岡

山里や雪積む下の水の音

雪ながら山紫の夕かな