和歌と俳句

正岡子規

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ある時は手もとへよせる湯婆

古庭や月に湯婆の湯をこぼす

胃痛やんで足のばしたる湯婆哉

碧梧桐のわれをいたはる湯婆哉

三十にして我老いし懐炉哉

あちら向き古足袋さして居る妻よ

野の道や十夜戻りの小提灯

芭蕉忌に芭蕉の像もなかりけり

故郷の大根うまき亥子哉

仏壇に水仙活けし冬至

餅を搗く音やお城の山かつら

年忘れ橙剥いて酒酌まん

此頃は蕪引くらん天王寺

風呂吹を喰ひに浮世へ百年目

夕烏一羽おくれてしぐれけり

しぐるるや蒟蒻冷えて臍の上

小夜時雨上野を虚子の来つつあらん

や禰宜の帰り行く森の中

の浄林の釜恙なきや

鴛鴦の羽に薄雪つもる静さよ

南天に雪吹きつけて雀鳴く

いくたびも雪の深さを尋ねけり

障子明けよ上野の雪を一目見ん

棕櫚の葉のばさりばさりとみぞれけり

水鳥や菜屑につれて二間程

菜屑など散らかしておけば鷦鷯

菊枯れて上野の山は静かなり

菊枯れて松の緑の寒げなり

背戸の菊枯れて道灌山近し

出家せんとして寺を思へば寒さ

冬ざれの厨に赤き蕪かな

冬さびぬ蔵沢の竹名月の書

畑の木に鳥籠かけし小春

フランスの一輪ざしや冬の薔薇

人も来ぬ根岸の奥よ冬籠

芭蕉忌の下駄多き庵や町はずれ

年忘れ酒泉の太守鼓打つ

豆腐屋の来ぬ日はあれど納豆売

静さに 積りけり三四尺

団栗の共に掃かるる落葉

水仙や晋山の僧黄衣なり

写し見る鏡中の人吾寒し

小説を草して独り春を待つ

侃々も諤々聞かず冬籠

遼東の夢見てさめる湯婆

兎角して佝僂となりぬ冬籠

声高に書を読む人よ冬籠

手炉さげて頭巾の人や寄席をでる