ある時は手もとへよせる湯婆哉
古庭や月に湯婆の湯をこぼす
胃痛やんで足のばしたる湯婆哉
碧梧桐のわれをいたはる湯婆哉
三十にして我老いし懐炉哉
あちら向き古足袋さして居る妻よ
野の道や十夜戻りの小提灯
芭蕉忌に芭蕉の像もなかりけり
故郷の大根うまき亥子哉
仏壇に水仙活けし冬至哉
餅を搗く音やお城の山かつら
年忘れ橙剥いて酒酌まん
此頃は蕪引くらん天王寺
風呂吹を喰ひに浮世へ百年目
夕烏一羽おくれてしぐれけり
しぐるるや蒟蒻冷えて臍の上
小夜時雨上野を虚子の来つつあらん
凩や禰宜の帰り行く森の中
凩の浄林の釜恙なきや
鴛鴦の羽に薄雪つもる静さよ
南天に雪吹きつけて雀鳴く
いくたびも雪の深さを尋ねけり
障子明けよ上野の雪を一目見ん
棕櫚の葉のばさりばさりとみぞれけり
水鳥や菜屑につれて二間程