和歌と俳句

横井也有

十一

井戸からもひとつ汲けりけふの月

美濃近江起てやかたるけふの月

鐘撞や我手におしむけふの月

芋よりも名はさ ゝげにぞ十六夜

鮓うりを垣からまねく穂蓼

昼からの鍋にしかける夜寒

富士はたゞ袴に着たる錦かな

丸ふ咲て月に見せけりけふの菊

辻番も一もと菊のあるじかな

もる軒に時雨もちかし後の月

菊畑にのこる星あり後の月

不破のあれ芭蕉に見るや後の月

上を見ぬ目にも欲あり菌狩

蓑虫の父よと呼ばかゝし

ゆく秋や尻も結ばぬ糸すゝき

行秋の時雨そふなと急ぎけり

秋来ぬと聞や豆腐の磨の音

折る指もけふから秋ぞ百日紅

秋なれや木の間木の間の空の色

牛牽て恋草かりや天の川

うしや今宵天の河原の茶挽草

七夕や葛ふく風は夜明から

星の床まだ仕廻ずや明の雲

魂棚や不順も順に置直し

送り火やわかれた人に別れあり