はつ鴈の信濃にかゝる夜は寒し
初かりや高ねを左右へひるがへる
京ちかき山にか ゝるやわたり鳥
夕あさり鴫の目はやく鷺鈍し
おのれのみ貪る鵙の眼ざしかな
犬蓼の節をれしたり秋の暮
人の上に烟かゝれりあきの暮
象潟やいのちうれしき秋のくれ
鹿の声をばなの末にかゝるかな
こけ猿も夜たゞ佗らむ鹿の声
けふの菊なき世の都めぐり哉
雪舟が筆の走か菊の露
山風や板戸たふれて菊の上
痩ぎくや只一もとのまさりがほ
秋の花みなうつ ゝなし后の月
月にゆかば鐘に夜明む建長寺
うらがれや西日にむかふ鳩の胸
藤の実に小寒き雨を見る日哉
岩の窪衣の袖の木の実哉
はなかつら背きあふ野辺の初あらし
鋭き物のかくは有まじ長瓢
芋黒く竹黄になりて鵙の声
落鮎や潮の闇に沈むまで
竜胆や岩のへげめの日にうとき
木母寺の灯に見る秋の行方哉
秋の名残山田の添水いとまあれや
山風や兎鼻つく九月尽
綿弓の弦引きれて九月尽
九月尽遥に能登の岬かな