葛の葉にうらみ皃なる細雨哉
朝顔にうすきゆかりの木槿哉
初汐に追れてのぼる小魚哉
鹿啼てははその木末あれにけり
落る日の括りて染る蕎麦の茎
五六升芋煮る坊の月見かな
鍋釜もゆかしき宿やけさの露
かけ稲のそらどけしたり草の露
舎利となる身の朝起や草の露
岡の家に画むしろ織るや萩の花
旅人の灯をこぼす秋の露
あかつきのやねに矢のたつ野分哉
先ふたつ瓦ふくもの野分かな
恙なき帆柱寐せる野分かな
秋風にちるや卒塔婆の鉋屑
十六夜の雲吹去りぬ秋の風
柿の葉の遠くちり来ぬそば畠
根に帰る花やよしのゝそば畠
なつかしきしのぶの里のきぬた哉
常燈の油尊き夜長かな
燈ともせと云ひつゝ出るや秋の暮
硝子の魚おどろきぬ今朝の秋
団扇して燈けしたりけさの秋