和歌と俳句

今朝の秋

棕櫚の葉の手をひろげたりけさの秋 子規

ふみつけた蟹の死骸やけさの秋 子規

けさの秋もの静かなる端居かな虚子

山寺に湯ざめを侮る今朝の秋 漱石

釣瓶きれて井戸を覗くや今朝の秋 漱石

親よりも白き羊や今朝の秋鬼城

今朝秋や見入る鏡に親の顔 鬼城

今朝の秋千里の馬を相しけり 碧梧桐

今朝秋や笏をいだけば袖ながし 蛇笏

鬢の影鏡にそよと今朝の秋漱石

寺の扉の谷に響くや今朝の秋 石鼎

釜敷に飯のこぼれや今朝の秋 石鼎

けさ秋の一帆生みぬ中の海 石鼎

けさ秋や芙蓉正しき花一つ 喜舟

障子閉めて間借同志や今朝の秋 石鼎

堰越ゆる水に日高し今朝の秋 石鼎

明石海峡朝ぐもりして今朝の秋 草城

頓服の新薬白し今朝の秋 龍之介

今朝秋や寝癖も寒き歯のきしみ 龍之介

今朝秋の湯けむり流れ大鏡 久女

八道の山は禿げたり今朝の秋 龍之介

浸りゐて水馴れぬ葛やけさの秋 不器男

ふるさとの幾山垣やけさの秋 不器男

出羽富士の雲や一刷毛今朝の秋 野風呂

寝返してみたる夢もや今朝の秋 万太郎

蓮広葉芭蕉広葉も今朝の秋 たかし

蚊屋の中に見てゐる秋や今朝の秋 たかし

飯綱に裾雲翔り今朝の秋 野風呂

匙をめで重湯甘しと今朝の秋 蛇笏

今朝秋の露なき芭蕉憂しと見し 茅舎

地にみてる空のひかりや今朝の秋 万太郎

渓流に雲のただよふ今朝の秋 蛇笏

今朝秋や母に代りて佛守る 立子