風をいたみ漂ふ池の浮草も誘ふ水なく氷柱ゐにけり
吉野川たぎつしらなみ氷りゐて岩根に落つる峰の松風
明石潟すまもひとつに空さえて月に千鳥も浦つたふなり
かたしきの袖のこほりも結ぼほれ解けて寝ぬ夜の夢ぞ短き
時雨より霰にかはる真木の屋の音せぬ雪ぞ今朝はさびしき
木枯しにつれなく残る奥山の真木のこずゑも雪折れにけり
誰を訪ひ誰を待たましとばかりに跡絶えはつる雪の山里
花のこる頃にやわかむ白雪の降りまがへたるみ吉野の山
かきくらす峰の吹雪に炭竃の烟のすゑぞ結ぼほれゆく
一夜とや春を待つらむ年月は今日くれたけの雪の下折
新古今集・恋
恋をのみ須磨のあまひと藻鹽たれ干しあへぬ袖の果てを知らばや
吉野川いはもる水のわきかへり色こそ見えね下さわぎつつ
いせしまや潮干に拾ふたまたまも手に取る程の行方しらせよ
新古今集・恋
楫をたえ由良のみなとに寄る舟のたよりも知らぬ沖つしほかぜ
せきかへす袖のしぐれや余るらむ人もこずゑに秋ぞ見えぬる
我かくて寝ぬ夜のはてをなかむとも誰かは知らむ有明のころ
しかすがに馴れこし人の袖の香のそれかとばかりいつ残りけむ
稀にこし頃だにつらき松風を幾夜ともなき寝覚めにぞきく
これはみな虚しきことぞとばかりは契るにつけて思い知りにき
新古今集・恋
いはざりき今こむまでの空の雲つきひ隔てて物思へとは