和歌と俳句

新古今和歌集

恋二

皇太后宮大夫俊成女
下もえに思ひ消えなむけぶりだにあとなき雲のはてぞ悲しき

藤原定家朝臣
なびかじなあまの藻鹽火たき初めて煙は空にくゆりわぶとも

摂政太政大臣良経
恋をのみすまの浦人藻鹽垂れほしあへぬ袖のはてを知らばや

二條院讃岐
みるめこそ生ひぬる磯の草ならめ袖さへ波の下に朽ちぬる

俊頼朝臣
君恋ふとなるみの浦の濱ひさぎしをれてのみも年を経るかな

前太政大臣
知るらめや木の葉降りしく谷水の岩間に漏らすしたのこころを

摂政太政大臣良経
洩らすなよ雲ゐるみねの初しぐれ木の葉は下に色かはるとも

後徳大寺左大臣実定
かくとだに思ふこころをいはせ山した行く水の草がくれつつ

殷富門院大輔
洩らさばやおもふ心をさてのみはえぞやましろの伊手の柵

近衛院御歌
恋しともいはば心のゆくべきにくるしや人目つつむおもひは

花園左大臣有仁
人知れぬ恋にわが身は沈めどもみるめに浮くは涙なりけり

神祇伯顕仲
物思ふといはぬばかりは忍ぶともいかがはすべき袖の雫を

藤原清輔朝臣
人知れず苦しきものはしのぶ山下はふ葛のうらみなりけり

藤原雅経
消えねただしのぶの山の峰の雲かかる心のあともなきまで

左衛門督通光
かぎりあればしのぶの山のふもとにも落葉がうへの露ぞいろづく

二條院讃岐
うちはへてくるしきものは人目のみしのぶの浦のあまのたく縄

春宮權大夫公継
忍ばじよ石間づたひの谷川も瀬をせくにこそ水まさりけれ

信濃
人もまだふみみぬ山のいはがくれ流るる水を袖にせくかな

西行法師
はるかなる岩のはざまにひとりゐて人目思はでものおもはばや

西行法師
數ならぬ心の咎になしはてて知らせでこそは身をも恨みめ