昨日まで雲のあなたに見し山の岩根にこよひ衣かたしく
散りつもる森の落葉をかきつめて木の下ながら烟たてつる
雲はねや月は灯し火かくてしも明かせば明くる小夜の中山
武蔵野に結べる草のゆかりとや一夜の枕つゆなれにけり
浮きまくら風のよるべもしらなみのうち寝る宵は夢をだに見ず
白雲の八重たつ山を深しともおぼえぬまでに住み馴れにけり
しをりせでひとりわけ来し奥山に誰まつかぜの庭に吹くらむ
山ふかみ岩しく袖に玉ちりて寝覚めならはす瀧の音かな
雲かかる山のかけはし踏み分けて入りにし道は苔おひにけり
忘れじの人だにとはぬ山路かな櫻は雪にふりかはれども
わたのはら沖のこじまの松かげに鵜のゐる岩を洗ふ白波
をちかたや岸の柳にゐる鷺の身の毛なみよる川風ぞ吹く
惜しきかな人もてかけぬ嘴鷹のとかへる山にころもへにけり
夕まぐれ小高き森に棲む鳩のひとり友呼ぶ聲ぞ悲しき
むしろ田のいつぬき川のしき波に群れゐる鶴の萬代のこゑ
玉椿ふたたび色は変はるともはこやの山の御代は尽きせじ
曇りなき雲居のすゑぞ遙かなる空ゆく月日はてをしらねば
くれたけの園よりうつる春の宮かねても千代の色は見えにき
若葉さす玉のうゑきの枝ごとに幾世の光みがきそふらむ
敷嶋や大和しまねも神代より君がためとやかためおきけむ