新勅撰集・雑歌
まどろまで ものおもふやどの ながき夜は とりのねばかり うれしきはなし
筑波嶺や 白雲かかる 松山の 千歳のかげの 尚しるきかな
涼しさに 幾夜か寝ぬる 呉竹の はやしは夏の ふしどなりけり
深緑 いはほが上に むす苔や そらにのぼらぬ けぶりなるらむ
沢深き わが子を思ふ 葦たづは 声も心も 空にやあるらむ
柴車 おちくる程に あしひきの 山の高さを 空に知るかな
今よりは ひのくま川に 駒とめし 頭の雪の 影うつりけり
すがるふす 野中の草や 深からむ 行き交う人のの 笠の見えぬは
逢坂の 関のせきもり いでて見よ うまやつたひの 鈴きこゆなり
新古今集・雑歌
真木の板も 苔むすばかり なりにけり 幾世経ぬらむ 瀬田の長橋
おほしほや 淡路の瀬戸の ふきわけに のぼりくだりの かた帆かくらむ
新勅撰集・羇旅
まだしらぬ たびのみちにぞ いでにける のはらしのはら ひとにとひつつ
千載集・離別
行く末を 待つべき身こそ 老いにけれ 別れは道の 遠きのみかは
山里は まれのほそみち 跡たえて まさきのかづら くる人もなし
稲妻の 光の間にも まどろまで 山田守る家に 夜を明かすかな
詞花集・雑
埋れ木の 下は朽つれど いにしへの 花のこころは わすれざりけり
詞花集・雑
百年は 花にやどりて すぐしてき この世は蝶の 夢にざりける
世の中を いかが頼まむ うたかたの あはれはかなき 水の沫かな
風を待つ 草葉の露を おほけなく 蓮の上に やどれとぞ思ふ
神山の 麓をとむる 御手洗の 岩うつ波や 万世の数