和歌と俳句

藤原良経

二夜百首

かたやまに入日のかげは射しながらしぐるともなき冬の夕暮

ものおもふ寝覚めの床のむらしぐれ袖よりほかもかくや雫は

程もなく過ぎつつ時雨いかにして月に宿かす名残とむらむ

過ぎ来ぬる嵐にたぐふむらしぐれ竹のさえだに聲はのこりて

きのふけふ都のしぐれ風さむしこれや越路の初雪のそら

志賀の浦こずゑに通ふ松風は氷に残るさざなみのこゑ

おほゐがは瀬々のいはなみ音たえて井堰の水に風こほるなり

今朝みれば池にはこほり隙もなしさて水鳥の夜離しけるを

山ふかき水のみなかみこほるらし清瀧川の音のともしき

なにはがた入江の葦は霜枯れて氷にたゆる舟の通ひ路

しらぬ山の雲をはかりに尋ねつつ昔は人に逢ひけるものを

今宵とて入日の空をながめわび雲のむかへを待たぬはかなさ

謀りなき恋のけぶりやこれならむ空に満ちたる五月雨の雲

恋ひ死なむ身ぞといひしを忘れずはこなたの空の雲をだに見よ

あかつきの風にわかるる横雲を置き行く袖のたぐひとぞみる

み吉野の山より深きものやあると心にとへば心なりけり

知るや君すゑのまつやま越す波に猶も越えたる袖のけしきを

なほ通へ宇津の山邊のうつつには絶えにしなかの夢路ばかりを

姨捨の山は心の内なれや頼めぬ夜半の月をながめて

消え難き下のおもひはなきものを富士も浅間も烟たてども