和歌と俳句

藤原良経

老若歌合五十首

秋を秋と思ひいりても眺めつる雲の果たての夕暮の空

鶉なく野邊のしのやにひとり寝て袂ならはす萩の下露

白露の頼めかおきし人は来で霧のまがきに松蟲のこゑ

たが秋の寝覚めとはむと分かずともただ我が為のさを鹿のこゑ

露のうへに仮の涙も置きてみむしばしな吹きそ荻のうは風

雲はみな拂ひはてたる秋風を松に残して月を見るかな

さむしろにひとり寝待ちの夜半の月しきしのぶべき秋の空かは

月残るふるさと人の浅茅生に忘れず秋の衣打つなり

見渡せば松に紅葉をこき混ぜて山こそ秋の錦なりけれ

草も木もおのがいろいろ改めて霜になりゆく長月のすゑ

秋風にあへず散りにし楢柴の虚しき枝に時雨ふるなり

臥し馴れし葦のまろやも霜枯れて内もあらはに宿る月かな

嵐ふく梢に波の音はして松のした水うすこほりせり

水上や絶え絶え氷る岩間より清瀧川に残る白波

月ぞすむ誰かはここに紀の國や吹上の千鳥ひとり鳴くなり

真木の戸を朝げの袖に風さえて初雪おつる峰の白雲

朝つ間や遠の外山に出づる日のをみがく志賀の唐崎

山人の焚きすさびたる椎柴の跡さへしめるの夕暮

呉竹の葉末にすがる白雪も夜ごろ経ぬれば氷とぞなる

吉野山花より雪に眺めきて雪より花も近づきにけり